

■第4回 「時間コスト」概念とITによる意思決定迅速化
宮脇建設株式会社 及び 建設ソフト株式会 取締役
株式会社北辰 代表取締役 中小企業診断士/ITコーディネータ 宮 脇 博 嗣
私が常日頃、仕事の上で重視していることは、「時間コスト=適時・機敏」の概念である。日本の多くの企業や公共部門では、通常の業務執行においてだけでなく、様々な意思決定を行う際においても時間コストを考慮しないことが大きな問題であると考えている。
以前、取締役会において、ある役員が「その案件については次回会議までに再検討しましょう」と発言した。その時私はすかさず「次回までにと言わず、今決めるべきだ」と言った。企業において、戦略や意思決定はスピードが命であり、先送りにして、時間をかけたからと言って、必ずしも良い意思決定ができるわけではないと私は考えている。
現場においても同様のことは指摘できる。一般に、公共事業の建設現場では効率的に実施した場合の実施工期間よりも契約上の工期が不要に長くなっている場合が多く、早く終わらせようという動機付けが働きにくくなっている。生産要素(労務、機械等)への支払、補助監督への支払などが、実際の生産性の高・低に関わらず、時間払いであり、納期で決まってしまっている。
こうした意思決定の迅速化を促進するのがIT化であり、「建設CALS」の場合では、主に1)入札時点、2)現場施工中、3)工事完了時の検定書類納品、の3段階で使われている。このうち、本来最も重要なのは現場施工中におけるITの活用であり、例えば現場の設計変更などが生じた際に、その詳細をすぐに打ち合わせて、発注者の承認を得て現場に戻すことが必要であるが、その手続きがなかなか迅速に進まないというのが現状である。その理由の一つは、発注者の現場担当における情報化が本質的に進んでいないことにあると思われる。
一方で、企業側にはIT化による格差が広がっている。経営者のIT化への意識が進んでいる企業と、必要性をあまり理解していない企業に二分されつつある。
一番大きな問題は、生産性や成果の高・低という格差を周囲の人も実は認めているのに、そのことが適切に評価されない組織では、結果として「時間コスト」の概念がなくなってしまい、「結果の悪平等」となっていることである。現在の日本では全体として早く物事を決めようという意識が足りず、懸案事項が先送りになってしまうという事態に至っており、年金問題、財政赤字の問題がそのいい例である。特に公共部門においては、早く意思決定しないと(全体として)損になるという認識が薄いように思われる。(そうした組織における情報化が進まない理由の背景には、情報化が進んで人材間の能力・成果格差が広がると、賃金格差が生じまた必要人員も減ることになり、困るという暗黙の意識も働いていると指摘できる。)
私の会社もかつてはそうだった。そこで、意思決定の迅速化を進めるために、各プロジェクトについて実行計画を作成し、その計画工期ぎりぎりにまで早く施工を進め、それに対してどれだけやったかということで評価することにし、時間コストを重視することをマネジメントから現場まで徹底化した。そのために、現場事務所のIT化を進め、評価を体系化することによって、現場技術者が負担していた事務的作業が軽減され、本来の現場工程管理・技術検討に集中できるようになった。
公共事業に限らず、日本全体が時間コストを重視しない社会主義的システムになっていたことが、現在の日本経済の停滞を招いてきたのではないか。日本の経済システムは、メーカーの工場以外は生産性が高いとは言えず、特にホワイトカラーや頭脳労働者の生産性はその労働時間からみても、他の先進国に比べて低いと言わざるをえない。
中国をはじめアジアの国々の経済成長が進む中、「時間コスト」の概念を重視し、「迅速な意思決定」をしていかないと、ますます日本経済は停滞していくことになるであろう。同じ意味で、企業においても、手段としてのIT化を進める以上に、本質的な意思決定の迅速化がなければ真の意味での成長はありえないと考えている。
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